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今年何冊目かの理系本です。
大学の教養科目で受講した心理学概論の推薦図書リストの中にあったものですが、
予想外に面白くて一気に読んでしまいました。
日本の脳科学界のなかでも注目されている池谷祐二氏が、
母校の後輩、現役の高校生に最新の脳科学を語った講義録です。
高校生に向かって話している著者がとても生き生きしています。
池谷氏の語り口というか、話し方がすごく好きです。やさしい人柄が出ているなあと。
脳の認知作用から始まって対人関係、自己認識まで、
最新の脳科学の知見が盛り沢山の豪華な本です。
まあ、2009年刊行のものなので「最新」ではないのですが…。
また、ウェブサイト上で講義内で示された画像、動画などを実際に見ることができるようになっていて、
理解や感動を深めることに役立ちます。PC用特設サイトはこちら。
本を持っていなくても見られます。
この本の話のうちで特に興味深かったのは、世界と自己の認識の話です。
人間は五感を駆使して世界をよく感知し、また自分自身を正確に把握しているような気がしますが、
実際には五感は穴だらけで感知しきれていないものも多く、さらに脳の機能上、
現実とは異なった自己像や自己感覚を認識していることさえあるようです。
例えば、とあるイリュージョンアートで、実際の画面上では複数のピンク色の玉が
順番に点滅しているだけなのに、それらをじっと見つめていると、ひとつの緑色の玉が
動いているように見える、というものが紹介されていました。
緑色の玉を錯覚しているとき、脳内では緑色を感知するニューロンが活性化しており
ピンク色のニューロンは停止しています。錯覚なのか実像なのか脳の活動からは分からないのです。
また、複雑に入り組んだ静止画が動いて見える、という錯覚のときも、
物体の動きを認識するニューロンが活性化してしまいます。
脳はその静止画を「動いているもの」として受容しているのです。
なんだか気味の悪い話だなあと思います。
自己認識に関しても、筋肉の運動とその自覚の逆転の話がありました。
実際に体が動くよりも先に、つまり電気信号が筋肉に到達する前に、
脳内ではまだ動いていない筋肉を「動いた」と認識するのです。
こういった脳の活動の矛盾や不合理を紹介し、その理由と考えられる説を分かりやすく説明することで
脳の不思議を解きほぐしていく、というのが全体を通しての手法になっています。
こういった話を読むと、脳内での認識を超えて現実の世界を
認識できないのだろうかと考えたくなりますが、
そもそも脳を介さずに世界を認知することは出来ないので無理なようです。
それに、一見どうしようもない欠陥のように思える事も、進化の歴史上仕方のないことだったり、
むしろ都合がよかったりするので一概に否定出来ません。
この本の中には「なるほど!」がたくさんありましたが、
「こうではないだろうか」はほとんどありませんでした。
著者と異なる説を考えてみても途中で矛盾に突き当たったり、そもそも反論が出てこなかったり。
僕の知識不足や発想力の乏しさが主な理由でしょうが、とにかく分かりやすく、説得力があります。
このような科学解説ものに自分の考えを述べるのは難しく、
単なる紹介になってしまったことは否めませんが、
「今、誰かに本をすすめるなら」といわれて真っ先に挙げるであろう一冊です。
考えれば考えるほど哲学的な深みにはまっていく、思考の泥沼を味わいたい方はぜひどうぞ。
なんだかまとまりきっていませんが、これで終わります。
理系本の感想を書くのはすごく難しい…;
では、またお目にかかるときまで。